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露出を右に寄せる(ETTR)
- RAWと露出
- Expose To The Right
- 別名: ETTR
- 別名: 露出を右に
- 別名: エクスポーズ・トゥ・ザ・ライト
ETTR という言葉を広めたのは2003年の記事で、その根拠は「最も明るい1段に全階調の半分がある」という階調数の配分でした。しかし後年の実測はこの根拠そのものを否定しています。結論(白飛びしない範囲で右に寄せる)は概ね維持されますが、理由は階調数ではなく S/N 比です。
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この操作が画像に何をするか
同じ場面を、白飛びしない範囲でできるだけ明るく撮ると、センサーが受け取る光子の数が増えます。光子の到来数のゆらぎ(ショットノイズ)は光子数の平方根でしか増えないので、光を多く集めるほど信号対雑音比は良くなります。現像で暗く戻せば、切り詰めて撮った場合より暗部のノイズが少ない画像になります。効いているのは階調数の配分ではなく、この S/N 比です。
効く場面
- 暗部にディテールを残したい場面で、ハイライトに余裕があるとき
- 絞りとシャッター速度を先に決めてしまい、あとは ISO しか動かせないとき
- 低照度で、暗部のノイズが仕上がりを左右する被写体を撮るとき
つまずきやすい点
- 「階調が多い側を使うため」という理由で ETTR を理解する(この根拠は実測で否定されている)
- 右に寄せすぎてハイライトを飽和させる(飽和した情報は現像では戻らない)
- カメラのヒストグラムや白飛び警告を RAW の飽和と同一視して限界を判断する
- ISO を上げれば必ずハイライトに余裕が生まれると考える(利得が出るのはシャドウ側)
どこまで裏が取れているか
この項目についてよく言われることを、出典に当たって確かめた結果です。出典が見つからなかったものは、見つからなかったと書いています。
- 原典で確認できる ETTR を広めた2003年の元記事は、その根拠を「最も明るい1段に全階調の半分がある」という階調数の配分に置いていた これは「元記事がそう主張していた」という事実についての established であって、その主張の正しさについてではない。現行の luminous-landscape.com では同記事は会員限定で本文が読めないため、Internet Archive の2007年1月6日のスナップショットを取得して確認した。記事冒頭によれば内容は、著者が2003年7月にアイスランドで Thomas Knoll(Photoshop および Camera Raw の作者)と交わした会話にもとづくとされているが、Knoll 本人がこの説明を裏づけた一次資料は本調査では確認していない。 出典: Michael Reichmann「Expose (to the) Right — Maximizing S/N Ratio in Digital Photography」Luminous Landscape (2003)
- 原典・実測で否定されている 「ETTR が有利なのは明るい側に階調が多いから」という根拠は、実測にもとづく検証で否定されている 否定されているのは「ETTR が有効である」という結論ではなく「その理由は階調数の配分である」という説明部分である点に注意。ETTR を推奨する結論自体は同記事も別の理由(S/N 比)で支持している。出典は査読論文でも規格でもなく、Emil Martinec が個人の大学ページで公開している自主的な実測記事(2008年5月最終更新)。否定の根拠となった測定は Canon EOS-1D Mark III の ISO 1600 / ISO 3200 の比較で、読み出しノイズの実測値(13.4 / 26.2 raw levels)を用いている。記事全体の測定対象は Nikon D3 / D300、Canon EOS-1D Mark III / 1Ds Mark III / 40D の5機種(いずれも2007〜2008年の製品)で、この5機種を超えて一般化できるかは分からない。反証の対象(Reichmann の記事)を名指ししている点は明確である。 出典: Emil Martinec「Noise, Dynamic Range and Bit Depth in Digital SLRs」S/N and Exposure Decisions 節 (2008)
- 二次資料でしか確認できていない S/N 比が露出とともに改善するのは、光子ショットノイズがポアソン統計に従い、標準偏差が光子数の平方根になるためである secondary_only としたのは、ポアソン分布の標準偏差が平均の平方根に等しいことは統計学の標準的な事実だが、本調査ではその原典(統計学の教科書・規格)まで遡っていないため。ここで示せるのは「Emil Martinec が個人の大学ページでそう説明している」ところまでである(査読を経ていない)。また光の到来がポアソン統計に厳密に従うこと自体を実証した一次文献も未確認。この節は光子ショットノイズのみを扱っており、実際のカメラでは読み出しノイズが加わる(同記事は両者が二乗和で加算されるとしている)。 出典: Emil Martinec「Noise, Dynamic Range and Bit Depth in Digital SLRs」(2008)
- 実証はあるが条件が限定的 絞りとシャッター速度を固定した場合、白飛びしない範囲で ISO を上げるほうがよい——ただし利得はハイライトではなくシャドウ側に出る limited の理由は、実証はあるが個人の大学ページで公開された単一の測定者による記事であり、査読を経ていないため。測定機種は Nikon D3 / D300、Canon EOS-1D Mark III / 1Ds Mark III / 40D の5機種(いずれも2007〜2008年の製品)。またこの結論は読み出しノイズが ISO 増幅の後段にも存在する機種で成り立つもので、いわゆる ISO インバリアントな機種では利得が小さくなる。同記事自身、Canon EOS-1D Mark III の ISO 1600 と ISO 3200 についてはノイズプロファイルがほぼ同じでどちらを選んでも差が無かった例として挙げている。最新機種にそのまま当てはまるかは未確認。 出典: Emil Martinec「Noise, Dynamic Range and Bit Depth in Digital SLRs」(2008)
他の項目の主張とあわせて確かめたい場合は根拠の強さで見るもご覧ください。
関連する現像の項目
- ヒストグラムの読み方 — ヒストグラムは「撮れた光の量」そのものではなく、何らかの処理を経た画像の統計です。カメラの表示は目安だとメーカー自身が明記しており、現像ソフトの表示も「現像後の画像」の統計だと明示されています。一方「山が中央に来るのが正解」という基準には、規格にもメーカー資料にも裏づけが見つかりませんでした。
- ハイライト・シャドウの復元 — 「RAW なら白飛びも戻せる」が成り立つのは、赤・緑・青の3チャンネルが同時には飽和しないという条件のもとでだけです。3つとも飽和した領域については、オープンソースの実装自身が「復元ではなく、もっともらしく見せかける処理」だと明言しています。何段まで戻せるかを定めた規格や実装は存在しません。
- ビット深度と階調 — 「14bit だから階調が滑らか」という説明は非常によく見かけますが、実測にもとづく検証はこれを支持していません。理由はノイズで、センサーのノイズが量子化のステップより大きいと、段差はノイズにかき消されて見えなくなります。ビット深度は単独では評価できず、S/N 比とセットでしか意味を持ちません。
- ノイズ除去 — 写真のノイズには、光が粒(光子)として届くこと自体から生じるショットノイズと、センサーの読み出し回路が加える読み出しノイズがある。前者は物理法則で決まり、どんなカメラでも避けられない。「ISO を上げるとノイズが増える」という言い方は、実測データを見ると少なくとも半分は誤解で、増感そのものよりも「取り込む光が少ないこと」が効いている。