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カメラプロファイルと「正しい色」
- 色の基礎
- Camera Profiles
- 別名: DCP
- 別名: カメラマッチング
- 別名: ピクチャースタイル
- 別名: ピクチャーコントロール
RAW から色を出すには、センサーの生の値を CIE の測色値に対応づける必要があり、その対応づけを担うのがカメラプロファイルである。DNG 仕様書はこの構造を公開しており、プロファイルが複数の照明条件ごとの行列と、色相・彩度・明度の変換表、さらに「ユーザー調整の出発点」としての look テーブルからなることが読み取れる。つまり規格自身が、カメラプロファイルには測色的な変換だけでなく意図的な作り込みが含まれると認めている。ここまでは DNG 仕様書という一次資料で行単位まで確認できる。確認できないのはその先で、「メーカー純正ソフトのほうが色が正しい」という広く言われる主張については、「正しさ」の基準を定義した規格・一次資料を見つけられなかった。仕組みは公開資料で確定できるのに、その仕組みの良し悪しを判定する基準だけが見つからない、という構造になっている。
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この操作が画像に何をするか
カメラプロファイルは、センサーが返した RGB の値を CIE XYZ に対応づけるための変換の束である。単一の行列ではない。DNG 仕様では、照明条件ごとに最大3組の較正(CalibrationIlluminant と ColorMatrix の組)を持つことができ、ユーザーがホワイトバランスを変えると、現像ソフトはその白色点の相関色温度を求め、較正照明の色温度の逆数を軸に線形補間して行列を作る。つまり「そのカメラの色」は固定された1枚の行列ではなく、ホワイトバランス設定に応じて連続的に変わる。さらにプロファイルには、色相・彩度・明度の3次元変換表(ProPhoto RGB の原色によるリニア RGB を HSV に直した空間で適用される)と、仕様書自身が「ユーザー調整の出発点となる既定の look」と呼ぶテーブルが含まれる。測色的な変換と、意図的な見た目の作り込みが、同じプロファイルの中に同居している。ここまでは仕様書に書いてあることだが、実在するメーカーのプロファイルがどれだけ作り込んでいるかは公開されておらず、本調査でも検証していない。
効く場面
- 同じ被写体・同じ光源を複数のカメラで撮り、色を揃えたいとき
- 現像ソフト既定のプロファイルの色が意図と違い、出発点を変えたいとき
- 肌の色やグレーの転び方を、編集で追い込む前の段階で決めておきたいとき
- カラーチャートを撮って自分でプロファイルを作り、条件を固定したいとき
つまずきやすい点
- プロファイルを変えたあと、その上に積んだ調整をやり直さずに色が合わないと悩む
- 「純正の色=測色的に正しい色」と考えてしまう(規格はそのような正解を定義していない)
- 撮影時のピクチャースタイル設定が RAW の画素値そのものを変えていると思い込む
- カメラプロファイルとモニタプロファイル、出力プロファイルを混同して二重に変換する
どこまで裏が取れているか
この項目についてよく言われることを、出典に当たって確かめた結果です。出典が見つからなかったものは、見つからなかったと書いています。
- 原典で確認できる DNG の「カメラプロファイル」は単一の変換行列ではなく、複数の照明条件ごとの色変換行列、色相/彩度/明度の変換表、既定の look テーブルなどからなるタグの集合である。 仕様書が「カメラプロファイル」という語を定義し、それに属するタグ(BaselineExposureOffset / CalibrationIlluminant1〜3 / ColorMatrix1〜3 / ProfileHueSatMapData1〜3 など)を列挙している箇所そのもの。DNG フォーマットについては一次資料。DCP(DNG Camera Profile)というファイル形式は、ここに列挙されたタグを単独ファイルにしたものだが、DCP という語自体は仕様書本文には現れない。/仕様書 PDF は Adobe の公式配布元から直接取得し、引用文が本文中に存在することを機械照合で確認した(全109ページ)。 出典: Adobe「Digital Negative (DNG) Specification」Version 1.6.0.0 (December 2021)「Camera Profiles」pp.13-14
- 原典で確認できる 較正が2つ以上ある場合、現像ソフトはユーザーが選んだホワイトバランスの相関色温度の逆数を軸に線形補間しなければならない、と DNG 仕様が定めている。 仕様書は「DNG は1つ、2つ、または3つの較正タグ組を持てる」「2つ以上ある場合、RAW コンバータはユーザーが選んだホワイトバランスに基づいて較正のあいだを補間すべきである」「DNG 1.2.0.0 以降は特定の補間アルゴリズム、すなわち相関色温度の逆数を用いた線形補間を要求する」と述べている。同章は較正照明を低色温度側(Standard-A など)と高色温度側(D55 や D65 など)に分けることも推奨している。この規定は DNG を読む現像ソフトに対するものであり、メーカー純正ソフトが自社 RAW をどう処理しているかは対象外。仕様書 PDF は Adobe の公式配布元から直接取得し、引用文の存在を機械照合で確認した。 出典: Adobe「Digital Negative (DNG) Specification」Version 1.6.0.0, Chapter 6「Mapping Camera Color Space to CIE XYZ Space」p.85
- 原典で確認できる DNG 仕様書は、カメラプロファイルに含まれる look テーブルを「ユーザー調整の出発点として適用できる既定の look」と記述している。規格自身が、プロファイルには測色的な変換以外の作り込みが含まれうると認めている。 仕様書自身が "look" という語を引用符付きで使い、それが「ユーザー調整の出発点(a starting point for user adjustment)」であると述べている。この引用が示すのは「カメラプロファイルには測色以外の作り込みが含まれうる」ことまでで、実在するメーカーのプロファイルが実際にどれだけ作り込んでいるかを定量的に示すものではない。個々のメーカー・機種のプロファイル内容は本調査では検証していない。仕様書 PDF は Adobe の公式配布元から直接取得し、引用文の存在を機械照合で確認した。 出典: Adobe「Digital Negative (DNG) Specification」Version 1.6.0.0, ProfileLookTableData タグの説明 p.55
- 原典で確認できる DNG の色相/彩度/明度変換表は、XYZ(D50) を ProPhoto RGB の原色によるリニア RGB に変換し、それを HSV に直した空間で適用される。ここでの「彩度」は HSV の S であって、CIE が定義する知覚量としての彩度ではない。 仕様書は手順を番号付きで明記している。XYZ(D50) を ProPhoto RGB 原色のリニア RGB(仕様書は RIMM space とも呼んでいる)へ変換し、HSV に直し、3次元の表を三線形補間して「色相のずらし量(度)」「彩度の倍率」「明度の倍率」を得る、という流れ。彩度の倍率を掛けたあと 1.0 でクリップすることまで規定されている。なお仕様書は ValueDivisions を 1 にして色相と彩度だけで表を引くことを推奨するとも述べている。仕様書 PDF は Adobe の公式配布元から直接取得し、引用文の存在を機械照合で確認した。 出典: Adobe「Digital Negative (DNG) Specification」Version 1.6.0.0「Applying the Hue/Saturation/Value Mapping Table」p.88
- 裏付ける出典が見つからない 「メーカー純正ソフトのほうが色が正しい」と言われるが、その「正しさ」の基準を定義した規格・一次資料を見つけられなかった。 探した範囲: (1) カメラの色特性を扱う ISO 17321-1:2012 のスコープを確認したが(www.iso.org が 403 のため国家標準化機関のカタログ https://iss.rs/en/project/show/iso:proj:56537 で確認)、これは「デジタルスチルカメラの色特性評価のための色刺激・測定法・試験手順を定める」規格であって、「どの色が正しいか」を定義するものではなかった。(2) DNG 仕様書 1.6.0.0 の全109ページを pleasing / preferred / taste / aesthetic / artistic / subjective / look で全文検索したが、測色的な正解を定義する記述は無く、逆に「artistic control」「ユーザー調整の出発点としての既定の look テーブル」という記述しか見つからなかった。(3) キヤノン公式(en.canon-cna.com、personal.canon.jp、cweb.canon.jp)およびニコン公式(nikon-image.com)のページは本調査環境から 403/404/名前解決不可で本文を取得できなかった。(4) メーカー各社が「自社ソフトの色が測色的に正しい」と主張している公式文書は発見できなかった。したがってこれは「出典が見つからなかった」であって「否定された」ではない。純正ソフトの色が「メーカーが意図した色」であること自体は、DNG 仕様が look テーブルの存在を認めていることとも整合する。
他の項目の主張とあわせて確かめたい場合は根拠の強さで見るもご覧ください。
関連する現像の項目
- ホワイトバランスと色温度 — 「色温度」はもともと黒体(プランク放射体)の温度を指す測色量で、CIE の定義では光源の色度が黒体と一致する場合にしか成立しない。蛍光灯・LED・昼光はいずれも黒体軌跡に乗らないため、実際に使われているのは近似量である相関色温度(CCT)のほうである。ここまでは CIE の規格定義で確認できる。一方、現像ソフトのスライダーが実際に何をしているかは、ソフトごとに公開の度合いが違う。RawTherapee と darktable は公式文書とソースコードで挙動を確定でき、値を上げると画像が暖色に転ぶこと、WB の実体が RGB チャンネルごとの乗算係数であることが読み取れる。ただしそれが「どの現像ソフトでもそうである」という一般則までは裏づけられていないため、このページの実装まわりの記述はいずれも「この2つのソフトでは」という限定つきである。
- RAWとJPEGは何が違うのか — JPEG が情報を捨てるのは規格そのものにそう定義されているからで、ここは議論の余地がありません。一方「RAW は劣化しない生データ」という説明のほうは、メーカー自身の取扱説明書と突き合わせると、そのままでは成り立たない場面があります。
- フィルムの色を再現する — 「フィルムの色」と呼ばれているものは、フィルムだけで決まっていない。カラーネガの場合、撮影用ネガと現像、そしてプリント(あるいはスキャン)の3段がひと組で設計されている。ネガのベースがオレンジ色に見えるのも、プリント段での色再現を良くするために仕込まれた仕掛けである。白黒では、撮影時のカラーフィルターが階調を作る主要な道具で、フィルターごとの露出倍数はメーカーが数値で公表している。デジタルのフィルムシミュレーションが実フィルムの色と一致することを示したデータは見つからず、メーカー自身もそこまでは主張していない。
- LUT(ルックアップテーブル) — LUT は「この入力色をこの出力色にする」という対応表である。3D LUT は RGB 空間に格子点を置き、格子点の間の色は補間で埋める。写真・映像でもっとも普及している .cube 形式は Adobe が仕様書を公開しており、格子点数・データの並び順・入力域の既定値まで定めている。LUT は本来、Log で記録された素材を表示用に正規化するために使われてきた道具であり、「当てれば映画の色になる」フィルターとは成り立ちが違う。