本ページにはアフィリエイト広告(プロモーション)が含まれる場合があります。
フィルムの色を再現する
- カラーグレーディング
- Film Emulation
- 別名: フィルムシミュレーション
- 別名: フィルム風
- 別名: オレンジベース
- 別名: カラーネガ
- 別名: 白黒フィルター
「フィルムの色」と呼ばれているものは、フィルムだけで決まっていない。カラーネガの場合、撮影用ネガと現像、そしてプリント(あるいはスキャン)の3段がひと組で設計されている。ネガのベースがオレンジ色に見えるのも、プリント段での色再現を良くするために仕込まれた仕掛けである。白黒では、撮影時のカラーフィルターが階調を作る主要な道具で、フィルターごとの露出倍数はメーカーが数値で公表している。デジタルのフィルムシミュレーションが実フィルムの色と一致することを示したデータは見つからず、メーカー自身もそこまでは主張していない。
図で見る
この操作が画像に何をするか
フィルム風の仕上げは、「あるフィルムの色」を1枚のフィルムの性質だと考えると話が合わなくなる。カラーネガは、ネガ・現像・プリント(またはスキャン)が組になって初めて最終的な色になるよう設計されている。現像したネガの何も写っていない部分までオレンジ色をしているのは劣化ではなく、プリントでの色再現を良くするために乳剤へ入れられたカラードカプラーのマスクによるものである。プリントフィルムの側も、ネガの3層のガンマが揃っていないことを見越して、シアン色素を作る層のガンマを高くして帳尻を合わせている。白黒では、階調を作る主要な道具は撮影時のカラーフィルターだった。フィルターは自分の色に近い被写体を明るく、補色にあたる被写体を暗く写し、その代わりに露出を伸ばす必要がある。デジタルでこれらを真似るとき、名前が同じでも色が同じである保証はどこにもない。
効く場面
- 特定のフィルムの見えを参照したいとき(同一になる保証はないことを承知のうえで)
- 白黒変換で、どの色を暗く沈めるかを決めたいとき(フィルターの考え方をそのまま使える)
- スキャンしたネガの色を、プリント相当の見えへ持っていきたいとき
- フィルム風プリセットを当てたあと、なぜその見えになるのかを分解して理解したいとき
つまずきやすい点
- ネガをスキャンしただけの状態を「そのフィルムの色」と考える(ネガはプリントされる前提で設計されている)
- フィルム風プリセットが実フィルムの色を再現していると思い込む(メーカー自身がそう主張していない)
- 白黒フィルターの露出倍数を、フィルムをまたいで同じ値だと思う(Kodak 自身がフィルムごとに違うと注記している)
- 赤フィルターの効果だけを狙って、8倍の露出増(3段分)を見落とす
どこまで裏が取れているか
この項目についてよく言われることを、出典に当たって確かめた結果です。出典が見つからなかったものは、見つからなかったと書いています。
- 原典で確認できる カラーネガの乳剤にはカラードカプラーによるマスクが入っており、これはプリントでの色再現を良くするためのものである。現像後のネガがオレンジ色に見えるのはこのためである。 データシートは「この乳剤には、リリースプリントで良好な色再現を得るためのカラードカプラーのマスクが含まれている」と記している。現像後のネガの透明部がオレンジ色に見えること自体は、Springer の学術書の章「Colored Couplers」(https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-3-662-09130-2_12 )の要旨が確認しているが、こちらは購読者限定で本文は読めず、確認できたのは要旨のみである。そのため「なぜオレンジなのか」の化学的な説明(不要吸収の補正)は主張として立てていない。またこの資料は kodak.com から直接取得できず、第三者アーカイブ(125px.com)がホストするコピーを取得した(文書内に「TECHNICAL INFORMATION DATA SHEET / TI0835 / Revised 6-93 / Copyright, Eastman Kodak Company, 1993」の記載あり)。kodak.com 上の PDF を検索したが、カラードカプラーやマスクに言及するものは見つからなかった。これは映画用ネガ 5247 についての記述であり、スチル用カラーネガ一般に自動的に一般化はできない。 出典: Eastman Kodak「Technical Information Data Sheet TI0835」EASTMAN Color Negative Film 5247 (Revised 6-93)
- 原典で確認できる プリントフィルムは、カラーネガの層ごとのガンマの違いを補償するように設計されている。多くのネガでは赤に感じる層のガンマがもっとも低く、プリントフィルムはシアン色素を作る層のガンマを高くしている。 白書は「映画用プリントフィルムはカラーネガのために設計されていることを承知しておくべきだ。カラーネガはデジタルカメラとは違う見方で色を捉える。まずカラーネガはバランスが取れておらず、3つの層が同じガンマを持たない。ほとんどのネガでは赤い光に感じる層のガンマがもっとも低い。プリントフィルムは、シアン色素を作る層のガンマを高くすることでこの特性を補償している」と述べている。この記述はデジタル素材をプリントフィルムへ焼き戻す際の注意として書かれたものである。白書は arri.com から直接取得できず、販売代理店(Samy's Camera)がホストするコピーを取得した。全ページに「ARRI | TECHNOLOGY」のヘッダがあり、PDF メタデータの作成日は 2011-03-30。ARRI 公式 URL は Internet Archive でも見つけられなかったため、ARRI 自身が現在も公開している文書であることは確認できていない。ただし無関係の第二のホスト(epoka.tv)から取得した PDF がバイト単位で同一サイズ(3,076,771 バイト)・同一本文であることを確認しており、内容が改変されている可能性は低い。この引用は「フィルム名を冠したデジタルプリセットが実物と一致しない」ことの反証ではなく、フィルムの色が単一の要素で決まらないことを示す一例である。 出典: ARRI「ALEXA Color Processing White Paper」(2011) p.15
- 原典で確認できる 白黒撮影用のカラーフィルターは、選んだ色の補色にあたる階調を暗くする。黄は紫と青を、赤は青と緑を、緑は赤と茶(肌を含む)を暗くする。 マニュアルは「フィルターは、選んだ色の補色にあたるグレーの階調を深くする。黄(Ye)フィルターは紫と青を、赤(R)フィルターは青と緑を深くする。緑(G)フィルターは赤と茶(肌の色を含む)を深くするので、ポートレートに向く」と一般則と具体例を記している。ただしこれはカメラ内のフィルムシミュレーション(デジタル処理)の説明であって、実物のガラスフィルターの測光的な効果を測ったデータではない。「補色の階調を暗くする」という一般則自体は Kodak の公式フィルター一覧(https://www.kodak.com/en/motion/page/wratten-2-filters/ )の記述と整合する(「15 — 深黄。風景写真で空を暗くする」「21 — 橙。青と青緑の吸収用コントラストフィルター」)。Kodak のページは各フィルターの用途を1行で述べたカタログで、透過率曲線は別ファイルとして提供されている。 出典: FUJIFILM X-Pro2 公式オンラインマニュアル「FILM SIMULATION」
- 原典で確認できる 白黒撮影用フィルターには露出倍数(フィルター係数)があり、Kodak TRI-X 400 では昼光で黄 No.8 が2倍、赤 No.25 が8倍である。係数はフィルムごとに異なる。 データシートは「フィルター補正 — 通常の露出時間にフィルター係数を掛ける」と定義し、TRI-X 400 について昼光/タングステン別の表を載せている(昼光: No.8 黄 2、No.11 黄緑 4、No.12 深黄 2.5、No.15 深黄 2.5、No.25 赤 8、No.47 青 6、No.58 緑 6、偏光 2.5。タングステン: それぞれ 1.5 / 3 / — / 1.5 / 5 / 12 / 6 / 2.5)。Kodak Alaris の公式サイトがホストする資料。フィルター係数はフィルムごとに違い、同じ資料内でも TRI-X 320 の No.58 は昼光8倍、TRI-X 400 は6倍である。同シリーズの T-MAX 100 のデータシート(F-4016)には「注: 他の Kodak 白黒フィルムのフィルター係数は異なる」と明記されている。橙(オレンジ)フィルター(No.16 / 21 / 22)の係数はこの表に載っておらず、Kodak の公式 WRATTEN 2 フィルター一覧にも係数の記載はなく、定性的な用途説明のみだった。 出典: Kodak Alaris「KODAK PROFESSIONAL TRI-X 320 and 400 Films」F-4017 (2016年12月)
- 裏付ける出典が見つからない 「フィルムシミュレーションやフィルム風プリセットは、実際のフィルムの色を再現している」と言われるが、それを裏づける測定データは見つけられず、メーカー自身もそこまでは主張していない。 探した範囲: 富士フイルムの公式オンラインマニュアル(X-Pro2 の FILM SIMULATION 項)、fujifilm-x.com の Film Simulation ページ、Kodak / Kodak Alaris の技術資料、Blackmagic 公式マニュアルの Film Look Creator の章。いずれにも、デジタルのフィルムシミュレーションやフィルム風プリセットが対応する実フィルムと測色的に一致することを示すデータ(色差・スペクトル・比較測定)は見つからなかった。注目すべきは、メーカー自身もそうは言っていないことである。富士フイルムの公式マニュアルの表現は「各種フィルムの効果をシミュレートする」であり、各モードの説明も「標準的な色再現」「高コントラストで彩度の高いパレット」といった定性的なものにとどまる。Blackmagic の Film Look Creator も「Blackmagic Film Look」という自社の呼称を使い、特定のフィルム名との対応を主張していない。
他の項目の主張とあわせて確かめたい場合は根拠の強さで見るもご覧ください。
関連する現像の項目
- スプリットトーン(調色) — 暗部と明部に別々の色を与える操作は、デジタル以前の暗室では化学反応そのものだった。銀の粒子を別の化合物に置き換えることで像の色が変わる。セピアは硫化銀、青は鉄由来のプルシアンブルーである。デジタルのスプリットトーンは、この見た目を「画素の明るさに応じて色を乗せる」というまったく別の原理で近似したものである。Lightroom では 2020 年に「スプリットトーン」が「カラーグレーディング」へ吸収されたが、旧設定は Blending を 100 にすれば同一の結果として再現できる。
- LUT(ルックアップテーブル) — LUT は「この入力色をこの出力色にする」という対応表である。3D LUT は RGB 空間に格子点を置き、格子点の間の色は補間で埋める。写真・映像でもっとも普及している .cube 形式は Adobe が仕様書を公開しており、格子点数・データの並び順・入力域の既定値まで定めている。LUT は本来、Log で記録された素材を表示用に正規化するために使われてきた道具であり、「当てれば映画の色になる」フィルターとは成り立ちが違う。
- カラーグレーディングとは何か — 暗部・中間調・明部にそれぞれ別の色を乗せて画の性格を決める操作を、映像の世界ではカラーグレーディングと呼ぶ。道具立ては大きく2系統ある。ひとつは映画用カラリストが使う Lift / Gamma / Gain で、3つのトーン域を大きく重ね合わせたまま動かす。もうひとつは撮影現場と仕上げのあいだで「色の決定」を受け渡すための ASC CDL で、slope / offset / power という3つの数値だけを持つ。Lightroom / Camera Raw の「カラーグレーディング」パネルは 2020 年に旧「スプリットトーン」を置き換えたもので、シャドウ・中間調・ハイライトの3つのカラーホイールを持つ。なお「カラーコレクション(補正)とカラーグレーディング(演出)は別物」という区別は、メーカー公式文書では徹底されていない。
- カメラプロファイルと「正しい色」 — RAW から色を出すには、センサーの生の値を CIE の測色値に対応づける必要があり、その対応づけを担うのがカメラプロファイルである。DNG 仕様書はこの構造を公開しており、プロファイルが複数の照明条件ごとの行列と、色相・彩度・明度の変換表、さらに「ユーザー調整の出発点」としての look テーブルからなることが読み取れる。つまり規格自身が、カメラプロファイルには測色的な変換だけでなく意図的な作り込みが含まれると認めている。ここまでは DNG 仕様書という一次資料で行単位まで確認できる。確認できないのはその先で、「メーカー純正ソフトのほうが色が正しい」という広く言われる主張については、「正しさ」の基準を定義した規格・一次資料を見つけられなかった。仕組みは公開資料で確定できるのに、その仕組みの良し悪しを判定する基準だけが見つからない、という構造になっている。
- トーンカーブとガンマ — ガンマとは、光の強さと符号値のあいだの非線形な対応づけである。sRGB の伝達関数は「ガンマ 2.2」と言われるが、実際には暗部に線形区間を持つ区分関数で、式に現れる指数は 1/2.4 である。この非線形性のため、符号値の 50% は光量の 50% ではない。さらにトーンカーブを RGB の各チャンネルに独立に掛けると RGB の比率が変わるため、明るさだけでなく色相まで動く。このページの内容は規格と測定に支えられているが、色相がどれだけずれるかの定量的な一般化までは出典が無い。「S字カーブを掛けるとコントラストが上がる」という広く言われる説明そのものも、実測ではなく曲線の傾きから導かれる幾何的な帰結として扱っている。