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スプリットトーン(調色)
- カラーグレーディング
- Split Toning
- 別名: 調色
- 別名: トーニング
- 別名: セピア
- 別名: ブルートーン
- 別名: 分割調色
暗部と明部に別々の色を与える操作は、デジタル以前の暗室では化学反応そのものだった。銀の粒子を別の化合物に置き換えることで像の色が変わる。セピアは硫化銀、青は鉄由来のプルシアンブルーである。デジタルのスプリットトーンは、この見た目を「画素の明るさに応じて色を乗せる」というまったく別の原理で近似したものである。Lightroom では 2020 年に「スプリットトーン」が「カラーグレーディング」へ吸収されたが、旧設定は Blending を 100 にすれば同一の結果として再現できる。
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この操作が画像に何をするか
デジタルのスプリットトーンは、画素の明るさを見て、明るい画素と暗い画素に別の色を混ぜる操作である。全体に一律の色を乗せる単純な色かぶりと違い、暗部と明部で色の方向を分けられるため、モノクロ写真に色味を与えたり、カラー写真の暗部と明部を色で切り分けたりできる。暗室の調色は同じ見た目を得るのにまったく違うことをしていた。銀でできた像を薬品で別の化合物に置き換える化学変化であり、セピアは硫化銀、青はプルシアンブルーという顔料そのものの色である。したがって「同じ色に見せる」ことはできても、同じことをしているわけではない。Lightroom では旧スプリットトーンがカラーグレーディングパネルに統合されたが、Blending を 100 にして中間調・グローバル・輝度を触らなければ、旧設定と同一の結果になるとメーカーが明記している。
効く場面
- モノクロ変換した画に、単色ではなく暗部と明部で違う色味を与えたいとき
- 暗部だけを冷たく、明部だけを暖かく振って、画面の中に温度差を作りたいとき
- 古い暗室プリントの見えを参照したいとき(同じ色になる保証はないことを承知のうえで)
- 過去のプリセットやレシピが「スプリットトーンで」と書かれていて、それを再現したいとき
つまずきやすい点
- デジタルのスプリットトーンが化学調色と同じ色を出すと思い込む(原理が違うので、一致を保証する出典はない)
- 調色の呼び名から化学的な仕組みを推測する(青調色は「コバルト調色」と呼ばれたが、調色液にコバルトは入っていない)
- 暗部と明部に強い色を入れた結果、ニュートラルであるべき中間調まで濁る
- 新しいカラーグレーディングパネルで、Blending を既定のまま旧スプリットトーンの数値をそのまま入れて、見えが合わないと悩む
どこまで裏が取れているか
この項目についてよく言われることを、出典に当たって確かめた結果です。出典が見つからなかったものは、見つからなかったと書いています。
- 原典で確認できる セピア調は、銀でできた像を硫化銀(Ag2S)に変換する硫黄調色によるものである。20世紀初頭にもっとも一般的だった調色でもある。 資料は「20世紀初頭にもっとも一般的に使われた調色は褐色の硫黄調色だった」と述べ、調色された銀像が Ag2S であることを本文で明記している。ゲッティ保存研究所が発行した保存科学の技術文献(無償公開PDF、64ページ)だが、分析化学(XRF)による同定を主題とした資料であって調色の作業手順書ではない。上記の記述は「XRF で硫黄が検出されても、その多くはバライタ層の硫酸バリウム由来であって硫化銀由来ではない」という分析上の注意を述べる文脈で出てくるもので、硫化銀であること自体は前提として扱われている。処方の詳細は「直接的あるいは間接的な調色手順」とあるだけで、具体的な薬品名はこの節にない。 出典: Stulik & Kaplan「The Atlas of Analytical Signatures of Photographic Processes: Silver Gelatin」Getty Conservation Institute (2013)
- 原典で確認できる 青(ブルー)調色は、銀をいったん銀塩に変えてから鉄塩と反応させ、プルシアンブルーの顔料に置き換えるものである。 資料は「銀粒子を銀塩に変換し、次に鉄塩溶液との反応で青い像を形成することに基づく、銀像の青調色の処方が数多く発表された。これらの反応の化学機構は異なるが、しばしばプルシアンブルー顔料からなる青い像が得られる」と述べている。「しばしば(often)」とあるとおり、処方によって生成物が異なりうることを原文も認めている。同節では XRF で最高濃度部の鉄濃度が最低濃度部より高いことを根拠にプルシアンブルーの存在を判定できるとしている。 出典: Stulik & Kaplan「The Atlas of Analytical Signatures of Photographic Processes: Silver Gelatin」Getty Conservation Institute (2013) 鉄調色の節
- 原典・実測で否定されている 「ブルートーン(青調色)はコバルトによるものである」という呼称は誤りで、調色液にコバルトは一切含まれていなかった。 資料は「青調色はコバルト調色としても知られていた。この名前は像の色(コバルトブルー)を指すのであって、調色液にコバルトが存在することを指すのではない。調色液にはコバルトの痕跡すら含まれていなかった」と明記している。歴史的な呼称についての指摘であり、現代のデジタル現像に直接関係するものではない。ただし「調色の名前は化学ではなく見た目に由来することがある」という一般的な注意としては意味がある。 出典: Stulik & Kaplan「The Atlas of Analytical Signatures of Photographic Processes: Silver Gelatin」Getty Conservation Institute (2013) 鉄調色の節
- 原典で確認できる デジタルのスプリットトーンは「画素の明るさに応じて色を乗せる」操作であり、像そのものを別の化合物に置き換える化学調色とは原理が異なる。 記事は「画素の明るさに基づいて画像に色のティントを適用できる。明るい画素は暗い画素と違う色に着色できる」とデジタル側の原理を説明し、同じ段落で「これはデジタル画像に始まったものではない。調色とスプリットトーンは伝統的な暗室技法であり、調色はプリントを漂白してからトナーを適用することで行われていた」と対比している。Adobe 公式ブログ(Color Grading 機能のリード開発者による記事)で、Adobe 製品の実装についての一次資料。他社ソフトの実装を述べたものではない。記事は「デジタル版のほうが簡単だ」と実用面を比較しているだけで、両者の色再現が一致するかどうかには触れていない。したがってこれは「デジタル調色は化学調色と同じ色にならない」という主張の出典ではない。 出典: Adobe Blog「Introducing Color Grading」(From the ACR Team, 2020-10-20)
- 原典で確認できる 旧「スプリットトーン」は、カラーグレーディングパネルで Blending を 100 にし、中間調・グローバル・輝度のコントロールをすべて 0 にした状態と同一の結果になる。 記事は「スプリットトーンは Blending を制御できず、常に現在 Blending = 100 と呼んでいる状態を使っていた。Blending スライダーを 100 にすれば旧スプリットトーンの見えが得られる。他の新しいコントロールはすべてゼロに設定される(具体的には中間調のコントロール全部、グローバルのコントロール全部、輝度のコントロール全部)」と設定値を列挙し、手動で同じ状態を作れば「同一の結果」になるとしている。この等価性は Lightroom / Camera Raw に限った話であり、他社ソフトのスプリットトーン機能とは無関係。 出典: Adobe Blog「Introducing Color Grading」(From the ACR Team, 2020-10-20) Split Tone compatibility の節
他の項目の主張とあわせて確かめたい場合は根拠の強さで見るもご覧ください。
関連する現像の項目
- カラーグレーディングとは何か — 暗部・中間調・明部にそれぞれ別の色を乗せて画の性格を決める操作を、映像の世界ではカラーグレーディングと呼ぶ。道具立ては大きく2系統ある。ひとつは映画用カラリストが使う Lift / Gamma / Gain で、3つのトーン域を大きく重ね合わせたまま動かす。もうひとつは撮影現場と仕上げのあいだで「色の決定」を受け渡すための ASC CDL で、slope / offset / power という3つの数値だけを持つ。Lightroom / Camera Raw の「カラーグレーディング」パネルは 2020 年に旧「スプリットトーン」を置き換えたもので、シャドウ・中間調・ハイライトの3つのカラーホイールを持つ。なお「カラーコレクション(補正)とカラーグレーディング(演出)は別物」という区別は、メーカー公式文書では徹底されていない。
- ティール&オレンジ — 暗部に青緑(ティール)、明部にオレンジを置く配色は、2000年代以降の商業映画の定番として語られる。「肌の色がオレンジで、その補色が青緑だから肌が浮き立つ」という説明がほぼ必ず添えられる。このうち検証できるのは、肌の色が測色的にどこにあるかという部分だけである。「だから美しく見える」の部分は、色の組み合わせの好ましさを扱った心理物理実験に照らすと単純ではなく、むしろ素朴な補色調和説とは逆向きの結果がある。起源についての通説(デジタル・インターミディエイト以降に広まった、最初はこの作品)は、裏付けとなる一次資料を見つけられなかった。
- フィルムの色を再現する — 「フィルムの色」と呼ばれているものは、フィルムだけで決まっていない。カラーネガの場合、撮影用ネガと現像、そしてプリント(あるいはスキャン)の3段がひと組で設計されている。ネガのベースがオレンジ色に見えるのも、プリント段での色再現を良くするために仕込まれた仕掛けである。白黒では、撮影時のカラーフィルターが階調を作る主要な道具で、フィルターごとの露出倍数はメーカーが数値で公表している。デジタルのフィルムシミュレーションが実フィルムの色と一致することを示したデータは見つからず、メーカー自身もそこまでは主張していない。
- 彩度と自然な彩度(バイブランス) — 「彩度」という語には少なくとも3つの別々の意味がある。CIE が定義する知覚属性としての saturation、HSL/HSV の S、そして現像ソフトのスライダーである。「自然な彩度(バイブランス)」に至っては統一された定義がなく、同じ darktable の中でさえ、名前が同じで逆方向に働くモジュールが並存していた。Adobe が「低彩度の色を主に上げ、肌色の過飽和を防ぐ」と説明しているのは事実だが、そのアルゴリズムは公開されていない。一方オープンソースの実装はソースコードを読めば何をしているかが行単位で確定する。このページでいちばん確かなのは「実装ごとに動作が違う」という事実のほうで、「自然な彩度とは何か」という定義そのものには、参照できる共通の原典が存在しない。
- トーンカーブとガンマ — ガンマとは、光の強さと符号値のあいだの非線形な対応づけである。sRGB の伝達関数は「ガンマ 2.2」と言われるが、実際には暗部に線形区間を持つ区分関数で、式に現れる指数は 1/2.4 である。この非線形性のため、符号値の 50% は光量の 50% ではない。さらにトーンカーブを RGB の各チャンネルに独立に掛けると RGB の比率が変わるため、明るさだけでなく色相まで動く。このページの内容は規格と測定に支えられているが、色相がどれだけずれるかの定量的な一般化までは出典が無い。「S字カーブを掛けるとコントラストが上がる」という広く言われる説明そのものも、実測ではなく曲線の傾きから導かれる幾何的な帰結として扱っている。