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LUT(ルックアップテーブル)
- カラーグレーディング
- LUT (Look-Up Table)
- 別名: 3D LUT
- 別名: cube
- 別名: ルックアップテーブル
- 別名: シェイパーLUT
- 別名: ルック
LUT は「この入力色をこの出力色にする」という対応表である。3D LUT は RGB 空間に格子点を置き、格子点の間の色は補間で埋める。写真・映像でもっとも普及している .cube 形式は Adobe が仕様書を公開しており、格子点数・データの並び順・入力域の既定値まで定めている。LUT は本来、Log で記録された素材を表示用に正規化するために使われてきた道具であり、「当てれば映画の色になる」フィルターとは成り立ちが違う。
図で見る
この操作が画像に何をするか
LUT は色の対応表である。3D LUT は RGB の立方体の中に等間隔の格子を切り、格子点ごとに「変換後の RGB」を書き並べておく。入力の色が格子点にぴったり乗ることはまずないので、周囲の格子点から補間して出力を求める。.cube 形式ではテキストファイルの先頭で 1 辺の点数 N を宣言し、そのあとに N×N×N 行の数値が並ぶ。並び順は赤がもっとも速く、青がもっとも遅く変化する。テキストなのでエディタで中身を見ることができる。LUT が現場で果たしてきた主な役割は、Log で記録された平坦な素材を見られる状態に正規化すること、撮影現場と仕上げで共通の見えを配ること、そして味付けの出発点を用意することである。どの LUT も「入力がこの形式である」という前提の上に作られているので、前提の違う素材に当てれば設計どおりには動かない。
効く場面
- Log で記録した素材を、まず見られる状態(Rec.709 など)へ正規化したいとき
- 撮影現場のモニタと仕上げのモニタで、同じ見えを共有したいとき
- 複数カット・複数カメラに共通の出発点を一括で当てたいとき
- 自分で作ったルックを、別のソフトや別の担当者に数値として渡したいとき
つまずきやすい点
- Log 用に作られた LUT を、通常のガンマの写真や JPEG にそのまま当てる(前提とする入力エンコーディングが違う)
- RAW や Log のように 0〜1 を超える情報を持つ素材へ直接 3D LUT を当て、範囲外を切り捨ててしまう
- 格子点の少ない LUT(17³ など)をグレーディングの土台に使う
- 同じ .cube を別のソフトに読ませて、結果が完全に一致すると期待する
どこまで裏が取れているか
この項目についてよく言われることを、出典に当たって確かめた結果です。出典が見つからなかったものは、見つからなかったと書いています。
- 原典で確認できる .cube の 3D LUT は N×N×N の格子点(N は 2 から 256 の整数)を持ち、データ行は赤がもっとも速く、青がもっとも遅く変化する順に並ぶ。 仕様書は「各次元のサンプル点の数は N でなければならず、合計 N×N×N のサンプル点となる。N は [2, 256] の範囲の整数でなければならない」「テーブルデータの行は昇順のインデックス順でなければならず、最初の成分インデックス(赤)がもっとも速く、最後の成分インデックス(青)がもっとも遅く変化する。等価な C のインデックスは r + N*g + N*N*b である」と、いずれも shall(必須要件)として定めている。テーブルサイズを指定するキーワードは LUT_3D_SIZE(1次元版は LUT_1D_SIZE で N は [2, 65536])。この仕様書は現在 Adobe のサイトからは 404 で消えており、取得できたのは Internet Archive 経由のコピーである(オリジナル URL は wwwimages2.adobe.com/content/dam/acom/en/products/speedgrade/cc/pdfs/cube-lut-specification-1.0.pdf)。仕様書自身が「Cube フォーマットはもともと 2003 年に IRIDAS が開発した」と述べており、Adobe は買収後に既存実装を文書化した立場である。 出典: Adobe Systems「Cube LUT Specification Version 1.0」(2013年9月) 第7章
- 原典で確認できる 3D LUT の補間方式は .cube 仕様上「推奨(should)」であって必須ではないため、同じ LUT ファイルでもソフトによって結果が変わりうる。 仕様書は「読み手は、定義域内にあってサンプル点に一致しない入力値に対して補間を使わなければならない(shall)。読み手は1次元テーブルには線形補間を、3次元テーブルには四面体補間を使うべきである(should)」と書き、第2章で「shall / shall not はこの文書への適合のために従うべき要件を示し、should / should not はこの仕様が提供する推奨を示す」と定義している。つまり補間すること自体は必須だが、四面体補間を使うことは推奨にとどまり、三線形補間を使う実装も仕様に適合する。これは仕様の文言から導かれる論理的な帰結であって、実際に各ソフトの出力が食い違うことを実測した資料ではない。差がどの程度になるかは検証していない。 出典: Adobe Systems「Cube LUT Specification Version 1.0」(2013年9月) 第2章 Conventions・第8章 Application Requirements
- 原典で確認できる 3D LUT の格子点が少ないと結果がずれる。DaVinci Resolve は 17 点をグレーディング用途には非推奨とし、ARRI は ALEXA の Log C 素材に 32³ 以上を推奨している。 マニュアルは「3D LUT は 17x17x17、33x33x33、65x65x65 のキューブとして 32bit 浮動小数点処理で書き出せる」「17 点の LUT はグレーディングに使うことは推奨されないが、現場モニタリング用に書き出すときには有用である」と用途を分けている。もう一方の ARRI の技術白書(ALEXA Color Processing White Paper, 2011, p.16, https://www.samys.com/images/pdf/ALEXA-Color-Processing-White-Paper.pdf )は「この補間の結果として、3DLUT の格子点数が少ない(たとえば 16³ や 17³)と画像がわずかに変化しうる」「ALEXA SUP 2.x の Log C 画像には 32³ 以上の格子点を持つ 3DLUT を強く推奨する」と記す一方、「65³ や 33³ の格子点を持つルックアップテーブルの結果と元画像の差は見て分からないだろう」とも述べている。ARRI の白書は arri.com から直接取得できず、販売代理店(Samy's Camera)がホストするコピーを取得した。無関係の第二のホスト(epoka.tv)から取得したPDFとバイト単位で同一サイズ・同一本文であることを確認しているが、ARRI 自身が現在も公開している文書であることは確認できていない。ARRI の推奨値は ALEXA SUP 2.x の Log C 素材についてのもので、あらゆる LUT に一般化できる数値ではない。 出典: Blackmagic Design「DaVinci Resolve 21 Reference Manual」p.3546
- 原典で確認できる 3D LUT は設計された入力範囲の外にある値をクリップする。Log 素材のような広い範囲を扱うために、1D LUT と組み合わせたシェイパー LUT が使われる。 マニュアルは「処理効率のため、3D LUT は扱うデータに対して妥当な下限と上限を持つように設計されている。3D LUT がその設計範囲外の値を与えられると、範囲外のデータはクリップされることはよく知られている」「シェイパー LUT はこの問題を、まず 1D LUT で範囲外データを持つ映像信号を処理し、3D LUT がクランプしない範囲へ収めることで扱う」と述べている。Adobe の .cube 仕様書も入力域を DOMAIN_MIN / DOMAIN_MAX で宣言でき、「DOMAIN_MAX がファイルから省略された場合、上限は 1 1 1 でなければならない」と規定している。つまり多くの LUT は暗黙に 0〜1 の入力を前提としている。 出典: Blackmagic Design「DaVinci Resolve 21 Reference Manual」p.3546
- 裏付ける出典が見つからない 「LUT を当てれば映画の色になる」と言われるが、特定の LUT が特定の映画の色を再現することを検証した資料は見つけられなかった。 探した範囲: Blackmagic Design の公式リファレンスマニュアルの LUT の章(p.3544-3550 全文)、Adobe の Cube LUT 仕様書全文、ARRI の ALEXA Color Processing White Paper 全文。いずれにも、そうした主張も、それを裏づける検証データも見つからなかった。むしろ Blackmagic は LUT を「多くのことに使える単なる色変換操作にすぎず、ある使い方が他より重要ということはない」と位置づけ、Log 素材の正規化については「Log で符号化された素材は多くの画像データを保持しているが、最初は平坦でグレーディングなしでは使えない。グレーディングを始めるために、露出と色を調整して素材を正規化しなければならない」と、あくまで下ごしらえとして説明している。映画配布用の LUT が実際に本編の色と一致するかを測った公開データも見つけられなかった。逆に、LUT が前提とする入力エンコーディング(Log C、S-Log、REDFilmLog など)が合っていなければ意図した結果にならないことは、確認した各文書が共通して述べている。
他の項目の主張とあわせて確かめたい場合は根拠の強さで見るもご覧ください。
関連する現像の項目
- カラーグレーディングとは何か — 暗部・中間調・明部にそれぞれ別の色を乗せて画の性格を決める操作を、映像の世界ではカラーグレーディングと呼ぶ。道具立ては大きく2系統ある。ひとつは映画用カラリストが使う Lift / Gamma / Gain で、3つのトーン域を大きく重ね合わせたまま動かす。もうひとつは撮影現場と仕上げのあいだで「色の決定」を受け渡すための ASC CDL で、slope / offset / power という3つの数値だけを持つ。Lightroom / Camera Raw の「カラーグレーディング」パネルは 2020 年に旧「スプリットトーン」を置き換えたもので、シャドウ・中間調・ハイライトの3つのカラーホイールを持つ。なお「カラーコレクション(補正)とカラーグレーディング(演出)は別物」という区別は、メーカー公式文書では徹底されていない。
- フィルムの色を再現する — 「フィルムの色」と呼ばれているものは、フィルムだけで決まっていない。カラーネガの場合、撮影用ネガと現像、そしてプリント(あるいはスキャン)の3段がひと組で設計されている。ネガのベースがオレンジ色に見えるのも、プリント段での色再現を良くするために仕込まれた仕掛けである。白黒では、撮影時のカラーフィルターが階調を作る主要な道具で、フィルターごとの露出倍数はメーカーが数値で公表している。デジタルのフィルムシミュレーションが実フィルムの色と一致することを示したデータは見つからず、メーカー自身もそこまでは主張していない。
- カメラプロファイルと「正しい色」 — RAW から色を出すには、センサーの生の値を CIE の測色値に対応づける必要があり、その対応づけを担うのがカメラプロファイルである。DNG 仕様書はこの構造を公開しており、プロファイルが複数の照明条件ごとの行列と、色相・彩度・明度の変換表、さらに「ユーザー調整の出発点」としての look テーブルからなることが読み取れる。つまり規格自身が、カメラプロファイルには測色的な変換だけでなく意図的な作り込みが含まれると認めている。ここまでは DNG 仕様書という一次資料で行単位まで確認できる。確認できないのはその先で、「メーカー純正ソフトのほうが色が正しい」という広く言われる主張については、「正しさ」の基準を定義した規格・一次資料を見つけられなかった。仕組みは公開資料で確定できるのに、その仕組みの良し悪しを判定する基準だけが見つからない、という構造になっている。
- トーンカーブとガンマ — ガンマとは、光の強さと符号値のあいだの非線形な対応づけである。sRGB の伝達関数は「ガンマ 2.2」と言われるが、実際には暗部に線形区間を持つ区分関数で、式に現れる指数は 1/2.4 である。この非線形性のため、符号値の 50% は光量の 50% ではない。さらにトーンカーブを RGB の各チャンネルに独立に掛けると RGB の比率が変わるため、明るさだけでなく色相まで動く。このページの内容は規格と測定に支えられているが、色相がどれだけずれるかの定量的な一般化までは出典が無い。「S字カーブを掛けるとコントラストが上がる」という広く言われる説明そのものも、実測ではなく曲線の傾きから導かれる幾何的な帰結として扱っている。
- 色空間(sRGB / Adobe RGB / ProPhoto RGB) — 色空間は「原色3つと白色点の色度」+「伝達関数(ガンマ)」で定義される。この定義自体は規格の一次資料に数値まで書かれており、このページの数値はすべてそこから取っている。sRGB の原色はテレビ規格 ITU-R BT.709 から借りたものだが、伝達関数は BT.709 とは別の式である。Adobe RGB (1998) は線形区間を持たない単純なべき乗、ProPhoto RGB(規格名 ROMM RGB)は実在しないデバイスの色として定義される。そして Web は「プロファイルの付いていない画像・色は sRGB として扱う」と規定しているため、「Adobe RGB で書き出せばきれい」は書き出し先が Web の場合には成り立たない。曖昧さが残るのは「広色域だと何がどれだけ損なわれるか」の部分で、これは単一の研究の測定値しか見つかっていない。