本ページにはアフィリエイト広告(プロモーション)が含まれる場合があります。
黄金分割構図
- golden section composition
- 別名: 黄金分割
- 別名: 黄金分割点構図
画面に対角線を引き、別の頂点からその対角線に垂線を下ろした交点(黄金分割点)に主被写体を置くとされる構図。ただし「黄金分割点」という語は出典によって画面上の別の点を指しており、辺を黄金比 1:1.618 に分割した点(各辺の約38%/62%)を指す解説もある。ここでは両方の説明を併記したうえで、図はキヤノンの用語集の定義で作図している。
図で見る
画面の中で何が起きるか
対角線に垂線を下ろした4つの交点は、3:2の画面では各辺の長さに対して約31%/69%の位置に来る。三分割法の33%/67%よりわずかに隅寄りで、主役を置いたときに反対側へ残る空きは三分割よりも少し広くなる。ただし三分割との差は 0.333 − 0.308 ≒ 0.026 で、この図と同じ 1500×1000 の画面なら交点が横方向に約39ピクセル、縦方向に約26ピクセル動くだけ。並べて見比べないと分かりにくい。むしろ効いてくるのは画面比によって交点が動くことで、作図すれば確かめられるとおり、正方形では4点が画面中央の一点に重なり、16:9では各辺の約24%/76%まで隅へ離れる。三分割法の位置は辺の長さに対する比なので画面比が変わっても動かない。この違いのほうが実質的に効く。
向く被写体・場面
- 対角線に沿った被写体(線路・道・橋・尾根)があり、その線の上に主役を乗せたいとき
- 三分割法だと主役が窮屈に見えるとき、もう少しだけ隅へ寄せたいとき
- 16:9などの横長画面で、三分割よりはっきり隅へ寄せた配置にしたいとき
- 水平線と主役の高さを、対角線が作る同じ高さに揃えて整理したいとき
つまずきやすい点
- 「黄金分割」と書かれた解説を読んで作図したら、対角線に垂線を下ろす定義と、辺を黄金比に分割する定義が混在していて、位置が各辺の約7%食い違う
- 黄金分割点は画面比で移動するため、撮影後にトリミングで画面比を変えると、合わせたはずの位置がずれる
- 正方形にトリミングすると4点が中央の一点に重なり、日の丸構図と区別がつかなくなる
- 三分割との差は各辺の2〜3%(1500×1000の画面なら横に約39ピクセル、縦に約26ピクセル)しかないため、位置合わせに時間をかけた割に画面の印象が変わらない
どこまで裏が取れているか
この構図についてよく言われることを、出典に当たって確かめた結果です。出典が見つからなかったものは、見つからなかったと書いています。
- 二次資料でしか確認できていない キヤノンの写真用語集は「黄金分割」を、画面内に対角線を引き、別の頂点からその対角線に垂直線を引いた交点である4つのポイントに被写体を配置する構図と定義し、三分割法とは「厳密には違うもの」と明記している。 カメラメーカーの公式な用語集ではあるが、規格でも原典でもなく、この定義がどこから来たのかは示されていない。確認できたのはこの1件で、同じ定義を裏づける一次資料には到達していない。なおこの定義には黄金比(1:1.618)という数値そのものは出てこず、分割点は画面比によって移動する。 出典: キヤノン 写真用語集「黄金分割(おうごんぶんかつ)」
- 二次資料でしか確認できていない 一方で、三分割法を黄金比の近似として説明する解説もある。洋画家で絵画講師の坂元忠夫氏は「三分割法は単純な分割比による構図法ですが、最も美しい分割比といわれる黄金比から、それほどかけ離れているわけではありません」と述べている。 出典は写真ではなく絵画(油絵・水彩)の教室サイト1件で、著者は同サイトで自身を「洋画家/絵画講師」と記している。個人による解説であり、原典に基づく主張ではない。根拠として挙げられているのは、三分割法の分割比 1:2 の 1 と 2 がフィボナッチ数列の第2項・第3項にあたるという点だけである。なお同ページの本文が使っている語は「黄金比」で、「黄金分割」という語は本文に一度も現れない。三分割法と黄金比が同じものだとも述べておらず、「それほどかけ離れているわけではありません」という書き方にとどまっている。語そのものの食い違いについては次の主張で扱う。 出典: 坂元忠夫「構図の決め方・考え方 「三分割法」と黄金比との関係」(坂元忠夫の絵画教室 — 基礎から学ぶ油絵・水彩画)
- 出典によって食い違う 「黄金分割点」という同じ語が、出典によって画面上の別の点を指している。キヤノンの写真用語集は対角線に別の頂点から垂線を下ろした交点(3:2の画面では各辺の約31%/69%)を「黄金分割点」と呼び、絵画の解説サイトは辺を 1:(1+√5)/2 に分割した点(各辺の約38%/62%)を「黄金分割点」と定義している。 食い違いは3点ある。(1) 作図法:キヤノンは対角線とそこへ下ろした垂線の交点を取る。坂元氏は辺の中点から作図して AΦ:ΦC=1:(1+√5)/2 となる点Φを取り、これを「辺ACの黄金分割点」と呼んでいる(同ページには三平方の定理による証明が載っている)。(2) 位置:3:2の画面ではキヤノンの定義が各辺の約30.8%/69.2%、坂元氏の定義が約38.2%/61.8%で、差は各辺の約7.4%。三分割法(33.3%)との差がそれぞれ約2.6%・約4.9%であることを考えると、2つの「黄金分割点」どうしの差のほうが大きい。(3) 黄金比との関係:坂元氏の定義は黄金比そのものだが、キヤノンのページには「黄金比」という語も 1.618 という数値も一度も現れない(本サイトで同ページの本文を取得して数え、いずれも0件だった)。なお位置の百分率はどちらの出典にも書かれておらず、本サイトが各定義の作図から算出した値である。どちらの用法が正しいかを決められる規格・原典は見つかっていない。キヤノンの用語集は定義の出所を示しておらず、坂元氏のページは絵画講師個人による解説である。 出典: 坂元忠夫「当教室の公募展入選者の作品から、黄金比を使った構図を解説します」(坂元忠夫の絵画教室)
- 原典・実測で否定されている 「三分割法は黄金比に由来する」という説明は、三分割法の初出とされる John Thomas Smith の Remarks on Rural Scenery (1797) の原典では確認できない。原典に golden・φ・黄金比にあたる語は現れず、Smith が論じているのは 2:1(2/3対1/3)の比率である。数値としても 1/3≒0.333 と 1/φ≒0.618 は一致しない。 頁は特定できていない。該当の議論はスキャン本文の「( 13 )」と「( 19 )」の頁マーカーの間にあるが、その区間(14〜18頁)の頁マーカーはOCRで復元されておらず、pp.15–17 と断定することはできない。ただし「黄金比にあたる語が一度も出てこない」ことのほうは、頁を限定せず書物全体に対して確かめてある。本サイトで archive.org の全文テキスト(40,810文字)を取得して数えたところ、golden は大文字小文字を問わず0件、phi は4件あったがすべて topographical・graphic(2件)・Phillips という語中一致で、黄金比とは無関係だった。原典が黄金比に言及していないことは示せるが、「後世に黄金比と結びつけられた経緯」までは追えていない。 出典: John Thomas Smith, Remarks on Rural Scenery (London, 1797) — Internet Archive 全文スキャン
他の構図の主張とあわせて確かめたい場合は根拠の強さで見るもご覧ください。
レイルマン・黄金分割・三分割法・ファイ・グリッドの線の位置そのものは4つのグリッド位置をくらべるで数直線に並べて比較しています。
関連する構図
- 三分割法 — 画面を縦横それぞれ3等分し、その分割線の上や交点に主被写体・水平線を置く考え方。中央から少しずらすことで被写体の周囲に空きが生まれ、画面に向きが出やすくなるとされる。
- ファイ・グリッド構図 — 画面を 1 : 0.618 : 1 の比で分けたグリッド(分割線は 0.382 と 0.618 の位置)の線上や交点に主被写体を置く構図。三分割法の 1:1:1 より真ん中の帯が狭いのが違いとされる。ただし前提にある「黄金比が美しい」という主張には、実証と呼べる裏付けが確認できていない。
- 対角線構図 — 画面の対角線上に被写体や線を配置する構図。奥行きや動きを感じさせる技法として紹介される。
- フィボナッチ螺旋構図 — 渦を巻きながら内側へ収束していく螺旋を画面に重ね、その中心に主役を置く構図。「自然界にも現れる美しい比率」として広く紹介されるが、黄金比の美的優位性を裏づける実証は現在も決着しておらず、オウムガイの殻などを黄金螺旋とする説明には明確な反証がある。螺旋そのものを「主役を端に寄せつつ、視線が画面全体を一周する配置」の目安として使う分には、他の構図と同じように扱える。