本ページにはアフィリエイト広告(プロモーション)が含まれる場合があります。
ファイ・グリッド構図
- phi grid
- 別名: ファイグリッド
- 別名: 黄金比グリッド
画面を 1 : 0.618 : 1 の比で分けたグリッド(分割線は 0.382 と 0.618 の位置)の線上や交点に主被写体を置く構図。三分割法の 1:1:1 より真ん中の帯が狭いのが違いとされる。ただし前提にある「黄金比が美しい」という主張には、実証と呼べる裏付けが確認できていない。
図で見る
画面の中で何が起きるか
0.382 と 0.618 の線で分けると、画面は 1 : 0.618 : 1 の3つの帯になる。三分割法の 1:1:1 と比べて真ん中の帯が狭く、外側の2本が広い。主役を交点に置いたとき、被写体の外側に残る空きは三分割よりわずかに狭くなり、そのぶん中央寄りに見える。線の位置の差は 0.382 − 0.333 ≒ 0.049、つまり縦線なら画面の幅の、横線なら画面の高さの、それぞれ約5%にあたる。この図と同じ 1500×1000 の画面なら、縦線が約73ピクセル、横線が約49ピクセル動くだけで、三分割のグリッドと重ねて初めて分かる程度の量にとどまる。したがって画面の印象を決めているのは 0.382 か 0.333 かの差ではなく、どちら側の空きを広く取ったかのほうになりやすい。
向く被写体・場面
- 三分割法だと主役が端に寄りすぎて窮屈なとき、少しだけ中央へ戻したいとき
- カメラやアプリに黄金比グリッドの表示があり、それを目安に水平線を合わせたいとき
- 主役と副題を対角の交点に置き、間に中央の狭い帯を挟んで配置したいとき
- 画面を3つの帯として捉え、真ん中の帯を通路や隙間として使いたいとき
つまずきやすい点
- 三分割との差は各辺の約5%(1500×1000の画面なら縦線で約73ピクセル、横線で約49ピクセル)しかなく、合わせ込みに時間をかけた割に画面が変わらない
- 「黄金比だから美しい」という前提で選んでしまい、なぜその位置なのかを自分で説明できない
- 0.382/0.618 の線に合わせることが目的化し、被写体の向きや余白の取り方が後回しになる
- 解説によって「黄金比構図」「黄金分割」「ファイ・グリッド」が別のものを指しており、参照した資料ごとに置く位置が変わる
どこまで裏が取れているか
この構図についてよく言われることを、出典に当たって確かめた結果です。出典が見つからなかったものは、見つからなかったと書いています。
- 二次資料でしか確認できていない Phi Grid は、三分割法が画面を 1:1:1 に等分するのに対し、1:0.618:1 の比で分割するものとして説明されている(出典の原文は the Phi Grids divide in the ratio 1:0.618:1)。同じ記事は、分割線がより中央寄りになること、上下の帯だけが同じ大きさで真ん中の帯は大きさが違うことも書いている。 確認できたのは英語圏の写真解説サイト1件だけで、規格・学術文献・カメラメーカーの資料など、これを裏づける資料には到達していない。また本サイトが図で使っている分割線の位置 0.382/0.618 は、この 1:0.618:1 という比から計算した値(1÷2.618≒0.382)であって、出典にその数値は書かれていない。同じ記事は冒頭で Golden Spiral・Fibonacci Spiral・Phi Grid を「同じものの別名」として並べており、記事の内部でも名称と対象が一対一に対応していない。 出典: PhotographyAxis「Golden Ratio Photography Composition Guide」
- 二次資料でしか確認できていない 同じ「黄金比を使った構図」という括りの中に、まったく別の作図法がある。キヤノンの写真用語集は「黄金分割」を、画面内に対角線を引き、別の頂点からその対角線に垂直線を引いた交点である4つのポイントに被写体を配置する構図と定義しており、三分割法とは「厳密には違うもの」と明記している。辺を 0.382/0.618 で分けるファイ・グリッドとは、主題を置く位置が別の場所になる。 カメラメーカーの公式な用語集ではあるが、規格でも原典でもなく、この定義がどこから来たのかは示されていない。その意味では上のファイ・グリッドの説明と同じく、二次資料1件である。どちらが「正しい黄金比の構図」なのかを決められる資料は見つかっていないため、本サイトでは両方を別の構図として並べている(→黄金分割構図)。作図上の違いとして、キヤノンの定義による交点は画面比によって動くのに対し、0.382/0.618 の線は画面比が変わっても動かない。またキヤノンの定義には黄金比(1:1.618)という数値そのものが出てこない。 出典: キヤノン 写真用語集「黄金分割(おうごんぶんかつ)」
- 出典によって食い違う 「黄金比が人間の美的な好みに関係する」という前提は、実証されているとは言えない。グスタフ・フェヒナー(1876年ごろ)は黄金比に近い長方形が好まれるという結果を報告したが、英語版 Wikipedia は、その後の慎重な検証は「よくてもはっきりしない(at best, inconclusive)」と記している。 出典は百科事典の記述で三次資料であり、この一文の典拠としては Livio (2002) が挙げられている。フェヒナー自身の実験報告と、その後の追試の原典には到達していない。「はっきりしない」は「否定された」とは違うため、strength は refuted ではなく disputed とした。なお同記事は、モナリザに黄金比が使われているという説についても「レオナルド自身の記述に裏付けられていない」と述べている。 出典: Wikipedia (English)「Golden ratio」— Disputed observations
- 原典・実測で否定されている 黄金比が美術や建築に用いられているという通説の多くは誤りであると、Markowsky (1992) が数学教育の学術誌上で論じている。同論文は冒頭で「その数学的性質はおおむね正しく述べられているが、美術・建築・文学・美学について語られていることの多くは誤りか、著しく誤解を招くものである」と述べ、個別の例としてパルテノン神殿を検討している。挙げられている寸法から得られる比は 幅÷高さ ≒ 2.25、長さ÷幅 ≒ 2.25、また基壇から頂点までの高さを使った 101÷59 ≒ 1.71 で、いずれも黄金比(≒1.618)として認める許容範囲の外だとしている。 この PDF は紙面の画像スキャンでテキスト層がなく、そのままでは本文を抽出できない(抽出できるのは表題の58文字のみ)。本サイトでは各頁を画像として書き出して読んだうえで上記を書いており、根拠にしたのは p.2(導入)と p.9(パルテノン神殿)の記述である。全19頁のうち確認したのは p.2・p.5・p.9 の3頁で、論文全体を通読してはいない。なお DOI 10.2307/2686193 は doi.org 経由では出版社のエラーページに着地して本文に到達できないため、出典URLには著者サイトの全文PDFを挙げている。 出典: George Markowsky, "Misconceptions about the Golden Ratio", The College Mathematics Journal 23(1), 1992, pp.2–19(著者所属大学のサイトで全文公開。DOI: 10.2307/2686193)
- 原典・実測で否定されている 古典期ギリシャ建築に黄金比が用いられているという主張は、実測によって否定されている。Foutakis (2014) は紀元前5世紀から紀元後2世紀までの神殿15棟・記念墓18基・石棺8点・墓碑58点の寸法を調べ、黄金比は古典期(紀元前5世紀)のギリシャ建築からは完全に欠落しており、紀元前3〜2世紀にごく稀に用いられたにすぎないと結論している。 本文は購読者向けだが、上記URLで抄録が公開されており、標本数と結論はその抄録で確認した。本文(pp.71–86)は未読。同論文は同時に、塔・祭壇・墓・墓碑の4例では黄金比の比例が見つかったとも報告しており、「古代ギリシャに皆無」ではなく「古典期には皆無で、後代にごく稀」という主張である。 出典: Patrice Foutakis, "Did the Greeks Build According to the Golden Ratio?", Cambridge Archaeological Journal 24(1), 2014, pp.71–86
他の構図の主張とあわせて確かめたい場合は根拠の強さで見るもご覧ください。
レイルマン・黄金分割・三分割法・ファイ・グリッドの線の位置そのものは4つのグリッド位置をくらべるで数直線に並べて比較しています。
関連する構図
- 黄金分割構図 — 画面に対角線を引き、別の頂点からその対角線に垂線を下ろした交点(黄金分割点)に主被写体を置くとされる構図。ただし「黄金分割点」という語は出典によって画面上の別の点を指しており、辺を黄金比 1:1.618 に分割した点(各辺の約38%/62%)を指す解説もある。ここでは両方の説明を併記したうえで、図はキヤノンの用語集の定義で作図している。
- 三分割法 — 画面を縦横それぞれ3等分し、その分割線の上や交点に主被写体・水平線を置く考え方。中央から少しずらすことで被写体の周囲に空きが生まれ、画面に向きが出やすくなるとされる。
- レイルマン構図 — 画面を4等分する線と2本の対角線が交わる点のうち、中心を除いた4点に主題を置く構図。鉄道写真家・中井精也氏がニコンの写真講座で「レイルマン比率」として示している方法で、交点は三分割法よりも画面の隅に寄る。
- 四分割構図 — 画面を縦横それぞれ4等分し、その分割線や交点に主被写体・水平線を置く考え方。三分割法より線が1本ずつ多く、被写体を端に寄せる位置と中央線の両方を選べるのが違いとされる。