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色相別の調整(HSL / カラーミキサー)
- カラーグレーディング
- HSL / Color Mixer
- 別名: HSL
- 別名: カラーミキサー
- 別名: カラーエディター
- 別名: 色相別調整
- 別名: ColorSlice
色相帯ごとに色相・彩度・輝度を動かすパネルは、どの現像ソフトにもある。ただし「何色に分けるか」はソフトごとに違い、共通の規格はない。Capture One の基本カラーエディターは8色、DaVinci Resolve の ColorSlice は7つのベクトルで分ける。また、この種の調整が階調の段差(バンディング)を起こしうることは、メーカー自身が処理バージョンの説明として認めている。「肌はオレンジだからオレンジのスライダーを触ればよい」という説明は広く行われているが、そう定義した公式資料は見つけられなかった。
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この操作が画像に何をするか
HSL / カラーミキサーは、画像を色相の帯に分けて、帯ごとに色相・彩度・輝度を動かす道具である。空の青だけを深くする、葉の緑だけを黄色寄りに振る、といった選択的な操作ができる。ただし、どの帯がどこからどこまでを指すかはソフトが決めており、共通の規格はない。Capture One は赤・緑・青・シアン・マゼンタ・黄・オレンジ・ピンクの8色、DaVinci Resolve の ColorSlice はベクトルスコープの軸に沿った6ベクトルに肌色を足した7つ、というように分け方そのものが違う。帯で区切って触る以上、帯の内側と外側の境目をどうつなぐかという問題が必ず生じるため、Capture One には隣接色との変化の度合いを決める Smoothness という専用パラメータが用意されている。強く動かしたときに階調が段差になって現れることは、Adobe が処理バージョンの改善点として明記している。
効く場面
- 空・葉・衣服など、特定の色だけを他に影響させずに動かしたいとき
- 混在した光源で、ある色だけが浮いて見えるのを抑えたいとき
- 全体の彩度を上げずに、目立たせたい色だけを持ち上げたいとき
- モノクロ変換で、元の色ごとに明るさの配分を決めたいとき(白黒ミキサー)
つまずきやすい点
- 「オレンジのスライダー」がソフトをまたいで同じ範囲を指すと思い、別のソフトのレシピをそのまま持ち込む
- 肌の色をオレンジのスライダー1本で整えようとする(主要ソフトのメーカー自身が肌色を通常の色相帯とは別枠で扱っている)
- 強く動かした結果、空や肌のなだらかな階調に段差(バンディング)が出ていることに、等倍で確認せず気づかない
- 帯の境界をまたぐ被写体(グラデーションのある空、髪と肌の境目)で、境目に不自然な色の切り替わりを作ってしまう
どこまで裏が取れているか
この項目についてよく言われることを、出典に当たって確かめた結果です。出典が見つからなかったものは、見つからなかったと書いています。
- 原典で確認できる 色相帯の数と区切りはソフトごとに異なる。Capture One の基本カラーエディターは8色(赤・緑・青・シアン・マゼンタ・黄・オレンジ・ピンク)、DaVinci Resolve の ColorSlice は7つのベクトル(RGB + CMY + 肌色)である。共通の規格はない。 Capture One は「ありふれた色調整には基本カラーエディターが便利で、色域ごと(赤・緑・青・シアン・マゼンタ・黄・オレンジ・ピンク)に1組の調整ができる」と記している。DaVinci Resolve 公式マニュアル p.3267(https://documents.blackmagicdesign.com/UserManuals/DaVinci_Resolve_21_Reference_Manual.pdf )は「ColorSlice ツールは7つの異なるベクトル空間スライスで構成される。各スライスはベクトルスコープ上の慣習的なベクトル(赤・緑・青・シアン・マゼンタ・黄)に基づく色の範囲を制御する。加えて7つ目のベクトルが肌色のために追加されている」と記す。いずれも各社が自社製品について書いた一次資料。ただし両者は同じ種類のツールではなく、Capture One の基本カラーエディターはスライダー式、Resolve の ColorSlice はベクトルスコープの軸に沿ったスライスである。Adobe の Lightroom / Camera Raw が持つ色相帯の一覧を公式ヘルプ本文から確認することはできなかった。 出典: Capture One 公式サポート「The Color Editor overview」
- 原典で確認できる Adobe は、カラーミキサー/白黒ミキサーの調整がバンディング(階調の段差)を生じることを認め、Process Version 6 で軽減したと記載している。 ヘルプは「Process Version 6 — Process version 6 はカラーミキサーと白黒ミキサーの調整を使うときのバンディングを軽減する」と一文で記している。Adobe 公式ヘルプ(Lightroom Classic、最終更新 2024-07-29)であり、Adobe 製品についての一次資料。他社ソフトにも同じ問題があるとは書かれていない。どの程度の調整量で起きるか、なぜ起きるかも書かれていない。またこれはバンディング(階調の段差)についての記述であって、「ハロー(縁の光り)が出る」という別種の破綻を裏づけるものではない。 出典: Adobe「Lightroom Classic ヘルプ / Develop module options」Process versions の節
- 原典で確認できる 色相帯の境界をなめらかにつなぐための専用パラメータがメーカーによって用意されている(Capture One の Smoothness)。境界が不連続になりうることが、道具の側でも前提にされている。 記事は「4つ目のパラメータである Smoothness は、選択した色域と関連する色とのあいだの変化の度合いを調整し、色が自然な見た目になって色どうしのあいだが滑らかに移行するようにする」と述べている。Capture One 公式サポート記事で、自社製品についての一次資料。このパラメータの存在は「境界が問題になりうる」ことの傍証であって、「HSL 調整は必ず破綻する」ことの証明ではない。同記事には、Skin Tone モードには Uniformity スライダーが3本追加されていることも記されており、肌色は別扱いされている。 出典: Capture One 公式サポート「The Color Editor overview」
- 裏付ける出典が見つからない 「肌はオレンジだから、オレンジのスライダーだけ触れば肌が整う」と言われるが、肌の色が特定の色相帯に対応すると定義した公式資料は見つけられなかった。 探した範囲: Adobe 公式ヘルプ(Camera Raw の Color Mixer 解説、Lightroom Classic の Develop module options、Lightroom Web / Mobile の Adjust color)、Capture One 公式サポートの Color Editor overview、Blackmagic 公式マニュアルの ColorSlice / Secondary Qualifiers の章。いずれにも「肌はオレンジ帯に対応する」と定義した記述はなかった。むしろ Capture One は肌色専用の Skin Tone モードを、DaVinci Resolve は6色のベクトルとは別に7つ目の肌色ベクトルを用意しており、両社とも肌色を通常の色相帯とは別扱いしている。測色的にも、肌色クラスタを CIELAB 空間の楕円体で近似した研究では主軸パラメータが [38, 1.4, 2.5]、つまり3軸の長さが大きく異なる偏った形に広がっており、ひとつの色相帯にきれいに収まる形ではない。肌の色が特定のスライダー1本に対応することを示す測定データも見つけられなかった。
他の項目の主張とあわせて確かめたい場合は根拠の強さで見るもご覧ください。
関連する現像の項目
- 彩度と自然な彩度(バイブランス) — 「彩度」という語には少なくとも3つの別々の意味がある。CIE が定義する知覚属性としての saturation、HSL/HSV の S、そして現像ソフトのスライダーである。「自然な彩度(バイブランス)」に至っては統一された定義がなく、同じ darktable の中でさえ、名前が同じで逆方向に働くモジュールが並存していた。Adobe が「低彩度の色を主に上げ、肌色の過飽和を防ぐ」と説明しているのは事実だが、そのアルゴリズムは公開されていない。一方オープンソースの実装はソースコードを読めば何をしているかが行単位で確定する。このページでいちばん確かなのは「実装ごとに動作が違う」という事実のほうで、「自然な彩度とは何か」という定義そのものには、参照できる共通の原典が存在しない。
- カラーグレーディングとは何か — 暗部・中間調・明部にそれぞれ別の色を乗せて画の性格を決める操作を、映像の世界ではカラーグレーディングと呼ぶ。道具立ては大きく2系統ある。ひとつは映画用カラリストが使う Lift / Gamma / Gain で、3つのトーン域を大きく重ね合わせたまま動かす。もうひとつは撮影現場と仕上げのあいだで「色の決定」を受け渡すための ASC CDL で、slope / offset / power という3つの数値だけを持つ。Lightroom / Camera Raw の「カラーグレーディング」パネルは 2020 年に旧「スプリットトーン」を置き換えたもので、シャドウ・中間調・ハイライトの3つのカラーホイールを持つ。なお「カラーコレクション(補正)とカラーグレーディング(演出)は別物」という区別は、メーカー公式文書では徹底されていない。
- ティール&オレンジ — 暗部に青緑(ティール)、明部にオレンジを置く配色は、2000年代以降の商業映画の定番として語られる。「肌の色がオレンジで、その補色が青緑だから肌が浮き立つ」という説明がほぼ必ず添えられる。このうち検証できるのは、肌の色が測色的にどこにあるかという部分だけである。「だから美しく見える」の部分は、色の組み合わせの好ましさを扱った心理物理実験に照らすと単純ではなく、むしろ素朴な補色調和説とは逆向きの結果がある。起源についての通説(デジタル・インターミディエイト以降に広まった、最初はこの作品)は、裏付けとなる一次資料を見つけられなかった。
- ホワイトバランスと色温度 — 「色温度」はもともと黒体(プランク放射体)の温度を指す測色量で、CIE の定義では光源の色度が黒体と一致する場合にしか成立しない。蛍光灯・LED・昼光はいずれも黒体軌跡に乗らないため、実際に使われているのは近似量である相関色温度(CCT)のほうである。ここまでは CIE の規格定義で確認できる。一方、現像ソフトのスライダーが実際に何をしているかは、ソフトごとに公開の度合いが違う。RawTherapee と darktable は公式文書とソースコードで挙動を確定でき、値を上げると画像が暖色に転ぶこと、WB の実体が RGB チャンネルごとの乗算係数であることが読み取れる。ただしそれが「どの現像ソフトでもそうである」という一般則までは裏づけられていないため、このページの実装まわりの記述はいずれも「この2つのソフトでは」という限定つきである。
- ビット深度と階調 — 「14bit だから階調が滑らか」という説明は非常によく見かけますが、実測にもとづく検証はこれを支持していません。理由はノイズで、センサーのノイズが量子化のステップより大きいと、段差はノイズにかき消されて見えなくなります。ビット深度は単独では評価できず、S/N 比とセットでしか意味を持ちません。